イタリア／ティボリ温泉体験記 Bagni di Tivoli

2018年
　イタリアはドイツなどと並び、欧州の中でも温泉保養地が多い国である。かつて、モンテカティーニ・テルメを訪れたことがある。ただ、イタリアの温泉の多くは、都市や駅からかなり離れており、訪問しにくいというのが正直な印象だ（モンテカティーニはその中でも比較的駅に近くて便利なところである）。また基本的にイタリアでは温泉は療養の一環としてとらえられているので、メディカルチェックを受けなければならないところも多い。都市からも比較的近く、最寄り駅からも近いような場所にあり、しかもレジャープールのように気軽に楽しめる温泉地はないだろうか・・・。2018年に観光でローマを訪れることになった際、そんな無理をかなえてくれる場所をいろいろと探してみた。
　かつてローマ法王も訪れていたといわれるヴィテルボ温泉などはローマからも直通バスが出ており、それを利用すれば行きやすい。しかし、もっと近場で手軽な温泉はないかと色々探してみたところ、その存在を初めて知ったのが、ティボリ温泉（Bagni di Tivoli）だった。そこは、単にローマから近いというだけでなく、結構本格的な泉質に驚く場所である。

　温泉について説明する前に、観光地であるティボリについて簡単に説明しておきたい。ティボリはローマ郊外にある観光地だ。ローマ中心部からの訪問方法は地下鉄とバスを乗り継ぐ方法などいくつかあるが、私はテルミニ駅からの鉄道を利用した。テルミニ駅からローカル列車に乗って小一時間ぐらいでティボリ駅に着く。そこから３０分ほど歩くと、広大な庭園を擁する「ヴィッラ・デステ」などの名所が存在する。高台からの眺めも壮観だ。ローマを訪れた際、ちょっと足を伸ばすのにはお勧めの場所である。

　さて今回の温泉は、ローマ中心部と、そのティボリを結ぶ鉄道の中間地点にある。その名もバーニ・ディ・ティボリ（Bagni di Tivoli＝ティボリ温泉）。Roma TerminiもしくはRoma Tiburtinaからだいたい２５〜３０分前後ぐらいで着く。今回の目的地である温泉施設は、この駅から歩いて１０分前後ぐらいという至近距離にある。敷地は線路のすぐ近くにまで広がっている。
　施設の名前は、Terme di Toma。ローマ市民など近所の若者や家族連れなどもよく利用しているようで、カウンセリングなどはせずにレジャー施設としてだれでも利用できるようである。ウェブサイトの説明によると、摂氏２３度の温泉が毎秒３０００リットルという量で送り込まれているのだという。
　施設に近づくだけで、硫黄の匂いがぷんぷん漂ってくる。どうやら本格的な温泉のようだ。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
Tivoliの高台からの眺め Tivoliのビッラ・デステ Bagni di Tivoli駅
Bagni di Tivoli駅の外観は質素 Terme di Tomaの入口は豪華 ホテルも併設されている

　

　ともかくは入口らしきところから入ってみる。あらゆる説明書きは基本的にイタリア語ばかりで何だかよく分からないが、カウンターに行って、プールだけの利用はできるか聞いてみる。もちろん可能、ということだった。屋外プールの利用だけなら、入場料は平日１４ユーロ、土曜・休日１７ユーロ（2020年時点、以下同）。これ以外にも、様々なスパトリートメントメニューがオプションとして存在している。実は、後でわかるのだが、キャビンを使いたい場合やプールサイドチェアを使いたい場合などはすべて有料で追加料金がかかる。あらかじめウェブサイトで確認し、必要なものは最初にお金を支払っておくといい。
　（屋外プールの利用料金などの案内サイトはこちら）
　私は全くその辺が分からず、プール利用料金だけ払って中に入った。カウンターのすぐ横に改札機があり、そこから施設エリアに入っていく。
　中に入ると、意外な広さと、温泉の本格さにちょっと驚いた。広大なプールがいくつも広がり、すべて白く濁っている。そして硫黄の匂いがプンプンしている。温泉好きとしてはテンションが上がってくる。この日は夏の真っ盛りということもあってか若者の利用も結構多く、全体としてけっこう混雑していた。
　ここで、はたと悩む。通常、こうした施設の場合、カウンターでお金を支払って中に入ると、まずは着替えのスペースやロッカーがあり、水着に着替えて荷物をロッカーに預けてからプールゾーンに入るものだ。しかし、この施設は、改札を通るといきなりプールゾーンになっている。いったいどこで着替えるというのか。
　周囲を見渡すと、売店やレストランなどの建物はあるが、着替え場所のようなものは見当たらない。入り口に戻って係員の人に「どこで着替えるのか」と聞くと、プールのワキをまっすぐ進み、茂みのある場所の左の方にあるという。そっちの方に行ってみる。キャビンのようなものが並んでいるが、ドアを開けようと試みても鍵がかかっている。これも、実は別料金（12ユーロ）を支払わないと使えないものだったようだ（家族連れなどの場合、ここを使うのが安全面でもコスト面でも良いのだろう）。
　色々探していたら、コインロッカーが並ぶ建物があった。その奥にはカーテンで仕切られた着替え場所のような空間があった。どうやら、ここがリーズナブルな着替え場所なのだろうか。
チケット売り場。わかりにくい 入るといきなりプールゾーン 奥に進むとロッカーのある建物が
　

　コインロッカーには小さめのもの（2ユーロ）と大きめのもの（5ユーロユーロ）があり。荷物の量によって使い分ける。どうやらハイテク仕様なのだがとにかくわかりにくく、地元のイタリア人と思しき人々も迷いながら使っているようだった。どうやら空いているところに荷物を入れ、その料金を払う装置のところでロッカー番号を入れてお金を支払い、自分専用の暗証番号を設定すれば鍵がかかるというもののようだった。とすると、その前に着替えておく必要がある。奥にあるカーテンで仕切られた個室のようなところで着替え（男女の別などはない極めて単純なものだった）、荷物をまとめたうえで、前の人の使い方を眺めながらロッカーを利用した。やたらとでかい電子音声（アナウンサーの声かもしれないが）で「暗証番号を入力してください」といったことを知らせてくれる。英語を選べるので英語での音声に切り替えて使ったが、やたらとイタリア語訛りの英語で、ちょっと新鮮だった（笑）。
　てなわけでようやくプールゾーンに行く。飲み物などが買えるよう、ごく少量の現金だけ携えた。別料金の椅子やパラソルなどは使わなかったので、ビニール袋に入れてサンダルの横に置いて芝生の上に置いておくという、極めてデンジャラスな保管方法しかなかったが、プールに入っている間も目を離さないようにしながら温泉に浸かることにした。
　　
 
ロッカーの使い方はやや難しい ロッカー奥にある着替えスペース  チェア等の利用は有料だ

Terme di Romaのサイト



　温泉とはいってもプールなので、水温は低め。最初は「冷たい」と思うかもしれないが、すぐに慣れる。しばらく浸かっていると、不思議なことに体の中の方からポカポカしてくる雰囲気がある。そしてなによりも硫黄の香りが温泉そのものだ。真っ白に濁っているので水中の体は見えない。肌にわずかにヌルっとまとわりつく感覚もある。
　冒頭に書いたように家族連れや若者の利用者が多い。利用したのがちょうど夏の真っ盛りだったこともあり、はしゃぎまくる若者で大いに盛り上がっていた。時折、飛び込む若者がいて監視員に注意されるなど、レジャープールそのもののような光景も見られる。私はプールサイドに近い場所でゆっくりとつかり、温泉そのものを楽しむことにした。頭の上を吹き抜けていく風もさわやかで、旅で疲れた体を癒すには、ちょうど良い。なんだかんだと１時間以上はのんびりしていただろうか。
　プールはいくつもあるので、時折、散歩をしながら別のプールに入ったり、プールサイドの売店で飲み物を買ったりと、思い思いの楽しみ方をすることもできる。
　今回は、ローマに着いてからネットで探し、偶然にこの温泉を見つけて訪問してみたのだが、ローマ市内からこんなに近い場所にこのような場所があるのは本当に驚きであり、うれしい発見だった。ただ、次回、ここを訪れることがあるとすれば、こんどはちゃんと下調べをしてキャビンとかを利用してみたいと思う。

　以下は余談だが、ローマへの帰り。Bagni di Tivoli駅からRoma Tiburtinaに向かう列車に乗ろうとして切符を買おうとしたところ、なんとすべての自動販売機が故障していた！欧州では、切符を買って列車に乗らないと不正乗車とみなされ、多額の罰金を払わされる恐れもある（自動販売機が壊れているといった場合は、そのように説明すれば車内で買うこともできるようではあるが）。周囲のイタリア人も「故障してる。切符が買えない」と戸惑っていたが、別の客が「そこにあるタバッキ（売店）で買えるよ」と教えてくれた。確かに、駅のすぐ脇に売店がある。そこを訪れて恐る恐る聞いてみると、すんなり売ってくれた。よく、バスやトラムのチケットが売店で買えるという話は聞くが、列車の切符も買えるということは初めて知った。また同じようなことが何か起きたら、売店でも聞いてみようと思う。

     
メーンのプールはかなり広い 木陰で休めるスペースもある ちょっとしたリゾートの雰囲気

　　

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